米澤文雄シェフ×草ヶ谷昌彦スペシャル対談

米澤文雄シェフ×草ヶ谷昌彦
スペシャル対談

業界は違えど、作り手としての情熱や次世代への思いなど共通点の多いふたり。実は、米澤シェフもブルックリンミュージアムも、“原点”が同じだったという不思議な繋がりも明らかに!激変する社会において、“作り手・開拓者・同世代・親”など、ふたりの様々な一面が見える対談となりました。

■今回のお相手

米澤文雄シェフ

1980年、東京都生まれ。高校卒業後、恵比寿のレストランで4年間修業したのち、2002年に単身渡米。ミシュラン三ツ星常連の高級フレンチ「Jean-Georges」本店で日本人初のスー・シェフに就任。帰国後、国内の名店で料理長を歴任。2022年に独立し、初のオーナーレストラン「No Code」を西麻布に開業。料理人としての活動にとどまらず、食育から商品開発まで幅広い活動をしている。著書に「ヴィーガン・レシピ」(柴田書店)がある。

■米澤シェフとブルックリンの出会い

草ヶ谷 米澤さんが最初にうちに来てくださったのは、共通の知り合いがきっかけでしたよね?

米澤 そうですね。その方は、僕のお店にもよく来てくださっていて、5~6年前その方がSNSで財布を新調したという投稿を見つけて、思わず「どこで買ったんですか?」って連絡したんです。そしたら、「ブルックリンミュージアムだよ」って教えてくれて。

草ヶ谷 藍染めクロコダイルでしたよね。

米澤 完全に一目惚れですね。でも、当時の僕にはちょっと手が届かなかったので、「40歳の誕生日に買おう」と誓ったんです。そして、40歳になって、いざブルックリンミュージアムに伺ったら、偶然その方がいたんですよね!

草ヶ谷 そう!あの時は驚きましたね!

米澤 その財布を実際見せてもらったんですが、デザインもですけど、革の経年変化が本当にかっこよくて、「これと同じ物を作ってもらおう」と改めて決意しました。それで、その一週間後に改めてお店に伺ってオーダーさせていただきました。半年待ちで、出来上がりがずっと楽しみでしたね。

草ヶ谷 お待たせしてすみません・・・!でも、今はありがたいことに、ものによっては1年弱お待ちいただいている方もいらっしゃって、恐縮です。

米澤 そうなんですか!でも、待った分、喜びは大きくなりますからね。

草ヶ谷 そう言っていただけると助かります。

米澤 実際に手にした時は、めちゃくちゃ嬉しかったですね。大の大人を大興奮させる藍染クロコダイル。今は昔に比べて電子マネーも普及したこともあって、財布を使うシーンは減りましたけど、それでもあの財布を出すと、「あれ?それってどこの財布?」って聞いてもらえることが多くて、しかも、違いがわかるツウな人に言っていただくことが多いので、そのたびに嬉しい気持ちにさせてもらっています。

草ヶ谷 そういうっていただけると、こちらもめちゃくちゃ嬉しい。こだわりを持ち続けている甲斐があります。

米澤 財布や時計って、やっぱり大人の男の嗜みだなって思います。長く使える良い物を選んで使っていると、心が豊かになりますよね。

草ヶ谷 創業以来のコンセプト、“良いものを大切に永く”なので、そう感じていただけるのは光栄です。

米澤 あと、良い物ってリピートしたくなりますよね。財布の感動がずっと残っていたので、今年、独立したのを機に名刺入れを新調しようと考えた時、迷わずブルックリンで買おうと思いました。この時はタイミング良く、名刺入れの在庫が1個だけあったので、即決しました。

草ヶ谷 こんなこと伺うのは、ちょっと恥ずかしいですけど、どのあたりが気に入っていただけたポイントでしたか?

米澤 いま僕が持っているアイテムは、財布と名刺入れの2つですが、どちらも表情があって気に入っています。最初の財布は、藍染めのクロコダイルを数枚見せていただいて、草ケ谷さんと一緒に決めたんですよね。その過程も他では味わえない楽しみがありましたね。

草ヶ谷 僕のモットーは、お客様がビジネスにおいて、いい結果に繋がるようなモノを作り出すこと。わかりやすく言うと、テンションが上がるモノ。特にオーダーの場合は極上テンションを目指しています!

米澤 テンションが上がるとパフォーマンスは間違いなく上がります!その考えでモノづくりをされているからビジネスユーザーの方が多いんですね、納得です。特にオーダーは愛着も違いますよね。以前の僕は、財布をズボンのお尻のポケットに入れる癖があったんですが、やめました。形が変わってしまうのが嫌なので。丁寧に扱っています(笑)。そういえば、草ヶ谷さんがクロコの藍染めをはじめたきっかけはなんだったんですか?

草ヶ谷 日本でしかできないことを世界に発信したかったんです。藍染めという日本独自の手法が素晴らしいなと思ったのと、最高の素材であるクロコダイルを染めてみたらおもしろいんじゃないかという好奇心ですね。この掛け合わせを思いついて、作ってみたのが15年ぐらい前の話になります。

米澤 日本らしい掛け算ですね。

草ヶ谷 藍染めの青の深さは、他の手法では出せません。日本でレザーブランドをやっているからには、この素晴らしさを世界に発信して、日本の魅力を伝えないといけないなと感じたんです。それでこそ日本でやっている意味があるというか、意義があるというか。

米澤 その土地のものを使って最大限の表現をするという点では、食も同じですから。素晴らしいですね。ますます藍染めクロコが好きになりました。

草ヶ谷 「藍染めクロコで日本の魅力を世界に!」という思いもありますが、同じくらい、「作ったものをお渡しした瞬間の笑顔が見たい」というのもありますね。だから、「持ってるだけで気分が上がります」とか「自慢のアイテムです」とか、そういう言葉をいただいた時、この仕事をやっていて良かったなと心から思います。お客様に喜んでもらうことが、ものづくりの最大のモチベーションなので。これは、藍染めクロコに限らずですが、アイテムを愛してくださる方が大勢いらっしゃることが、この仕事をやらせていただいている意義なのかなと思っています。

米澤 僕も同じです。料理を提供した時の嬉しい反応が一番のモチベーションです。「美味しい」と言ってもらうのも嬉しいですが、「楽しい」とか「ここに来てよかった」とかの言葉が一番嬉しいですね。「美味しい」は他でも体験できますが、「ここに来てよかった」というのは、その人の中でオンリーワンの存在になれたということだと思うので、料理人として生きている意義を感じられる瞬間かもしれません。

草ヶ谷 自分は職人なので、作る過程も含めてお客様に寄り添っていくことがすごく大事だと考えているんですが、米澤さんは、お客様への寄り添い方が本当に素晴らしいですよね。「ホスピタリティ半端ないな」って。インスタにアップされているお客様との写真は、どれもお客様はもちろんのこと、米澤さんの笑顔もめちゃくちゃ輝いていて、「この場所は本当に素敵なところなんだろうな」「ここに行きたいな」と思わせる力がすごいなって。

米澤 恐縮です(笑)。

草ヶ谷 もうすぐですよね?新店のオープンは。

米澤 7月です。

草ヶ谷 楽しみですね!ちなみに、どんなコンセプトのお店にする予定なんですか?

米澤 「No Code」という名前のお店なんですけど、その名前の通り、規律や決まり、従来のルール通りでは無く、独自のスタイルで楽しくクリエイティブなレストランにしたいなと思っています。

草ヶ谷 聞いてるだけでワクワクします!

米澤 これまで僕が学んできたことや知識、経験の集大成をお見せできる場にできればと思っています。楽しみにしててくださいね。

草ヶ谷 絶対に行きますね!

■ブルックリンを愛した男たち

米澤 あの、これ実はずっと聞きたかったんですけど、「ブルックリンミュージアム」の名前ってどんな由来があるんですか?

草ヶ谷 ニューヨークの「ブルックリン」です。先代が26歳で起業した当時は、“Made in USA”に憧れている世代だったんです。当時の日本は、テレビがカラーになったり、車や冷蔵庫が一家に一台になったりと文明がアップデートされている時期だったんですが、アメリカは、まさに世界の最先端を走っていて、なかでもニューヨークはあらゆるカルチャーの発信地だったこともあって、キラキラしていたんだそうです。そのキラキラを作っているのは、マンハッタンの人たちじゃなくて、ブルックリンの人たちだってことを知った先代は、ブルックリンの人たちの時代を切り開くフロンティアスピリッツに負けてられないと思い、日本のファッション業界において、「レザーというジャンルで開拓者になりたい」という思いから、「ブルックリン」という名前をつけたという風に聞いています。

米澤 やっぱり、あの「ブルックリン」にちなんでいるんですね!実は僕、ニューヨークで修行していたんですが、ずっとブルックリンに住んでいたんです。3回ぐらい引っ越しをしたんですけど、あの街の雰囲気が好きで、ずっとブルックリンにいました。だから、僕にとって、あの街は原点とも言える場所で、ひもじい思いをしながら歯を食いしばっていた思い出深い街ですし、料理人として大きな一歩を踏み出した場所だったので、「ブルックリン」という響きには心惹かれるものがあって、ずっと前から名前の由来が気になっていたんです。

草ヶ谷 そんなに気にしてくださっていたんですね(笑)。それにしてもありがたい偶然ですね。ちなみに、うちは2002年頃、ブルックリンでOEMを中心に営業をしていたこともあったんです。その後、自分たちの思いを自分たちで伝えるお店を作ろうということで、日本で実店舗を立ち上げたので、日本で一歩目を踏み出す前の場所という意味では、米澤さんと同じ感覚かもしれません。

米澤 ちなみに、僕がニューヨークにいたのも2002年です。

草ヶ谷 えー!すごい!これはもはや奇跡の繋がりですね(笑)。

米澤 僕は高校を卒業して、日本で4年くらい修行していたんですが、ある時ふと、「ニューヨークに行きたい!」と思って渡米したんです。もしかしたら、草ヶ谷さんのお父様が感じていた憧れに近い感覚かもしれませんね。「これからはニューヨークだろ!」と。行ったこともないのに(笑)。それで22歳の時にブルックリンで家を借りたんです。

草ヶ谷 ここれはもう、原点が同じと言っても過言ではないですね(笑)。

米澤 繋がりますね。ちなみに、「ミュージアム」と付けたのはどうしてですか?

草ヶ谷 「ブルックリンミュージアム」という名前は、「美術館に来たみたいに、ゆっくり楽しんでもらおう」という思いが込められています。

米澤 なるほど。そう言われると、確かに店内の雰囲気が美術館みたいですもんね。落ち着きと高級感と文化の香りがして。僕は、この感じ大好きです。

草ヶ谷 今日は何回も褒めていただけるので嬉しいです(笑)。おかげさまで、今年の3月で小売りをはじめて20年になりました。

米澤 おめでとうございます。お祝いしないとですね!

草ヶ谷 いえいえ、ご愛顧いただけるだけでありがたいですから。これからもよろしくお願いします。米澤さんからのオーダーなら、どんなものでも作りますので。

米澤 でも、1年ぐらい待たないとなんでしょう?

草ヶ谷 そうですね(笑)。そこは先着順なので。

米澤 いいですよ。待ちますよ(笑)。

藍染めクロコダイルプロダクトはこちらから

次回の後半では、それぞれの業界でキャリア20年になる2人が考える“仕事論”“次世代への想い”“これからの社会との向き合い方”を熱く語り合います。お楽しみに!

Edit by Ryuichi Takao