直営店をオープンする2年前、2000年の春。
和久の息子である現代表取締役、昌彦がブルックリンへ入社します。

まずは、父和久に同行し、営業を勉強する日々。

毎夜、父とものづくりに関して模索しあう機会が増えていく中、
「オヤジの言ってることを俺が形にできたら。」
と思い始めた昌彦。

当時のブルックリンに職人はおらず、腕のよい職人へものづくりを依頼。
和久は職人ではなかったため、ものづくりを教えてくれる人は誰もいませんでした。

昌彦は、自らが学びたいと思える職人を探したいと思うように。
それは容易なことではなく、調べては足を運び、調べては足を運びの日々が続きました。

やっと巡りあったのは、70代のひとりの職人。
平日は和久のもとで営業を学び、週末は職人のもとへ。

夜明け前。
缶コーヒー2本を持ち、始発へ乗り込む。

職人は喋ってはくれません。
缶コーヒーを渡し、朝から晩まで職人の傍らでひたすら技術を見続けます。
革にも、針にも、ミシンにも、一切触らせてはもらえませんでした。
ただただ、「技」を見る。
見ながら、「頭」で考える。
頭の中で構造や仕組みを考え、「記憶」する。

幼い頃、プラモデルが大好きだった昌彦にとって、構造や仕組みを考えることは楽しくて仕方がないことであり、 一日中みていても飽きることはありませんでした。

夜もふけたころ急いで会社へ戻り、見た事を「形」にしていきます。
記憶したことを忠実に─。

頭で思い描いていた一連のことが、
スムーズにみえていた全ての動きが、
実際に行ってみると、全く思うようにいきません。
来る日も来る日も、作っては失敗、作っては失敗。

それでも絶対に手を止めません。
楽しくて楽しくて没頭し続けました。

「ただ形になれば良いのでない。
どのように手を加えれば、永く愛用できるものになるのだろうか。」

失敗を繰り返しながらも、絶対に諦めることはしませんでした。

時には、有名ブランドの商品を解体し、仕組みを知り、
「もっとこうすれば、さらに良くなるはずだ」
と、解体したものに手を加え、形にしていく。

作り続けてわかったこと。
それは、素材の特性によって “ 素材を活かすための作り方がある ” ということ。
そして、「技術と知恵」に “ ひと手間 ” を加えることで、モノはさらによくなるということ。

たとえ良い素材を使っても、その “ ひと手間 ” を怠ったものづくりでは「良いもの」は生まれないと気付いた昌彦。
モノでも料理でも “ ひと手間 ” は価格に反映されるが、その“ひと手間”に価格以上の価値があるのではないかと。

昌彦の根底にある美学。
商品として目の前にある “ 完成したもの ” は、僕の求める「完成」ではない──。

人もモノも日々経年していく。
それは、当たり前の姿。
その経年していく姿を “ いいな ” と感じてもらえて、はじめて「完成」するのだ、と。

そして、経年したときに、繕い直せるものはできるだけ繕い直し、次世代へ伝えていく。
完成の先にある「未来」を創りだすことが職人としての使命なのではないか、と。

1点1点へのひと手間を惜しまない昌彦のものづくりは、効率的ではありません。
なので大量生産ができません。

「大量生産が悪いとは思いません。
単純に、好きになれるものかどうか。
そこに “ 好き ” という想いがあるかどうか、が大切なのではないかと感じています。」


デジタルでは生まれない、0.1mmへの追求。

アナログな手間ひまを惜しまない、
凛とした揺るがない心。

昌彦のものづくりに対する信念は、こうして確立されていったのです

第六章

「毎日を愉しむための“遊び心”と環境問題」

COMING SOON...