純国産のレザーアイテムで世界を驚かせる準備はできている

純国産のレザーアイテムで
世界を驚かせる準備はできている

左:新品 右:6年使用

左:新品 右:6年使用

使い込まれ、色が変わった財布。
その佇まいからは、まるで激しい荒波を何度も乗り越えてきた歴戦の航海士のような風格さえ感じさせる。
これは、6年前に作られたヤマトを使った一品。
この6年間、持ち主はどんな時を過ごしてきたのだろうか。
持ち主の“一部”として、この財布はどんな場面に立ち会ってきたのだろうか。
革製品の魅力は、持ち主の生き様をその身に投影できること。
「人生を共にする相棒を作りたい」
その想いを“オールジャパン”のレザー「ヤマト」で表現する代表草ヶ谷。
彼が思い描く“ブルックリン・ビジョン”とは?

ブルックリンミュージアム革職人兼代表取締役・草ヶ谷昌彦インタビュー(後半)

■やっと時代が追いついてきた!?

━ 分断されていた日本の畜産業界と皮革業界に独自のルートを作ったことで誕生した「ヤマト」ですが、完成してからの反響はいかがでしたか?

ストーリーに共感していただき、商品を購入していただくことが増えました。とてもありがたいと思っています。イタリアやフランスのレザーをありがたがって使わなくても、日本には素晴らしい素材があることをもっと知っていただきたいですし、牛の皮が捨てられている“もったいなさ”を、ヤマトを通して知ったという方も少しずつ増えてきていて、手応えは感じています。

━  ストーリーで商品が売れる時代になりましたし、SDGsやエコも消費行動の決め手になることが増えてきました。この流れについてはどう思いますか?

確かにそういう時代になってきたなと感じることは増えました。ブルックリンミュージアムにとっては、狙ってそうしてきたわけではなく、あくまで自分たちの理想を追求してきた過程で、そういう時代のニーズとシンクロしたのかな、というのが正直なところです。

━  エコやSDGsを意識することはありますか?

元々、44年前の創業時より私たちの哲学「良いものを大切に永く」というベースがあり、「エコ」や「SDGs」的な考えは根付いていたので、改めて意識することはあまりないですが、社会のエコ意識が高まってきていることはとても喜ばしいことだと思っています。屠殺された牛の皮はほとんどが廃棄処分されてしまっている現状は、とても“もったいない”状態です。私たちが和牛の皮を使って革製品を作っているとしても、日本全体でみたら、やっぱりほとんどの皮は捨てられてしまっています。社会の関心が高まることで、現状を変える大きなうねりが起きたらいいなとは思っています。トレンドとマッチするのは、とてもありがたいことですが、私たちの根本にあるのは非常にシンプルな想いなので、変わらず前に進み続けられたらなと思っています。

━ あくまで大事なのは基本姿勢でいるということですね。

そうですね。自分たちの本質を見失ってはいけないと思います。「皮は捨てるなんてもったいないことはやめる」「良いものを作って適正な値段で買ってもらう」「職人がコスパを考えずものづくりに集中できる環境を作る」。これらを実現した先に、私たちが考える“無理のない自然な社会”があると思っているので、これからもそこを目指します。

━  ビジョンを実現することと、ビジネスを成功させることは、時に両立しないこともありますが、その点についてはいかがですか?

これは個人的に思っていることですが、いまの低迷する日本経済のなかで、私がいる業界はビジネス的にも大いなるポテンシャルを秘めているのではないかと思っています。

■「高い」と言われても気にしない

━  経営者として、いまの日本のマーケットをどう捉えていますか?

よく言われることですが、30年近いデフレで日本はすっかり変わってしまいました。私の父、先代から聞かされたバブルの頃の話なんて、とても同じ国とは思えないほどで、商売をしていても、値段なんてあってないような時代で、何でもかんでも飛ぶように売れたみたいですね。すごい時代です。だけど、いまはそんな時代じゃありません。いまの消費者感覚的に、「高くても良いものを買う」という人は少数派で、「いかに安く買うか」を重視している人が多いので、商品を作る側としても、それに合わせざるを得ないですよね。

━  “安いこと”が価値のひとつのようになっていますよね。

それ自体は私も生活の中で恩恵を受けているのでありがたいのですが、ものを作って売っている人間としては、「それなりのものを作って安く売る」という考えが企業側に定着してしまうと、業界も社会も先細りしていくしかないので正直恐ろしいですね。

━  表参道という、トレンドに敏感な街にショップを構えていると街の雰囲気から何か感じることもありますか?

二極化を感じます。表参道は、いつの時代も華やかです。高級ブランドのショッパーを下げている人がたくさん歩いています。だけど、日本の平均を考えると、ここにいる人達はほんの一部で、社会全体としては、ものが売れない時代にどんどんなっていっているなと感じますね。そんななかで、“間違いなく良い品質だけど高級な商品”は、果たして今後も生き残れるのか?という葛藤はいつも胸の中にあります。

━  これから消費の中心になってくるのは、バブルを知らない世代の子どもであるZ世代です。彼らは、非常に物欲が少ないとも言われてますよね。

非常に厳しいですよね。ですが、それもすべてわかったうえで、自分のなかにある想いは変わらないんです。どんな時代になろうとも、職人である以上は、自分の信じたものを作りたい。そのために、自分の店をやってるわけですし、たった1人だけでも、自分の信じて作ったアイテムを愛してくれる人がいるのなら、その人のために人生を懸けたいと思っています。

━  社会は意識しつつも、我が道を行くということですね。

そうですね。職人として生まれた以上は、作りたいものに対して、こだわりたいですし、絶対に妥協したくありません。自分の信じた道があるので、茨の道でもそこを進みたい。そして、世界に誇れる最高のメイドインジャパンを作りたいんです。青臭いかもしれませんが、私にはそのビジョンが見えているので、実現せずにはいられないんです。でも、一方で経営者として冷静な自分もいて、日本社会の未来という俯瞰した視点で考えると、いま私が抱いている危機感と希望をもっと多くの人に伝えて、みんなで出来ることをしたいという思いもあります。

■日本はレザー大国に絶対なれる!

━ 「希望」という言葉が出ましたが、具体的にはどんな希望の光が見えているのか教えていただけますか?

「メイドインジャパン」のブランド力を再構築することがポイントだと思っています。例えば、レザーでいうと、フランスのレザーやイタリアのレザーがすべて高品質かというと、決してそうではありません。ですが、商品化した際に「イタリア製の革を使ったこだわりの鞄」とうたわれると、それだけで少し上質でかっこいい感じがしますよね。国のイメージと製品のイメージが掛け算してそうなっているんだと思いますが、日本だって同じことができるはずなんです。

━ 確かに、日本文化は世界から注目されるオリジナリティを持ってますよね。

例えば、ファッション業界において世界で通用しているメイドインジャパンのブランドはどれぐらいあるかというと、各ジャンルでそれなりに日本を代表するブランドがありますよね。でも、これが、レザーになるとゼロなんです。世界的に評価されているメイドインジャパンのレザーブランドは聞いたことがありません。私が、「私がいる業界はビジネス的にも大いなるポテンシャルを秘めている」と言った理由は、ここにあります。まだ世界は、メイドインジャパンのレザーアイテムを知らないんです。

━ なるほど!空席のレザーアイテム日本代表の座を狙うということですね。

日本の皮を使って作られたオールジャパンのレザーアイテムの素晴らしさを世界に知ってもらいたいんです。イタリアやフランスと同じように、国内で大切に育てられ、食肉となった牛の皮を素材にして、そこからレザーアイテムを作り、素材も作り手もオールジャパン体制で世界進出がしたいんです。

━ 壮大な目標ですね!

日本にはセンスのある人がたくさんいます。そして、素晴らしい革素材もあります。これらがしっかりと噛み合えば、イタリアやフランスのように、メイドインジャパンのレザーアイテムも世界のマーケットで確固たるポジションを確保できると思うんです。そうなることで、様々な業界の新陳代謝が起き、色々なことが自然な姿になれるんじゃないかと期待しています。私たちの業界でいえば、「皮は捨てるなんてもったいないことはやめる」「良いものを作って適正な値段で買ってもらう」「職人がコスパを考えずものづくりに集中できる環境を作る」という、無理のない自然な姿になれるんじゃないかと期待してるんです。それは、経済的だし、エコだし、サスティナブルな世界です。その世界の扉を開くために、私は「ヤマト」を開発したとも言えます。

━ 「ヤマト」は共感の象徴でもあり、次世代に導く地図でもあるんですね。

私たちが、ヤマトで世界的に成功することができたら、きっと、追随してくる企業も出てくると思うんですね。実は、それが一番の狙いなんです。私たち以外にも、和牛の皮を使ったメイドインジャパンのレザーアイテムが増えれば、裾野が広がっていきます。そうするうちに、日本もイタリアやフランスみたいに、レザーアイテム大国になることができるかもしれません。業界全体で、社会全体で明るい未来に向かいたいんです。そして、きっとその過程で、様々な物事があるべき姿に戻ったり、自然なエコサイクルが出来上がるんじゃないかと思っています。

━ 日本がイタリアやフランスと並ぶ日が来たら素敵ですね!

私は決して夢物語ではないと思っています。日本人のDNAにある“もったいない”精神は、それこそ世界一SDGsな感覚です。いまは、少し忘れてしまっているかもしれませんが、その感覚を思い出すことで、“良いもの”を長く使う社会になってほしいですし、そんな時に、“良いもの”として選んでもらえるアイテムを作り続けたいと思っています。

■循環はみんなを幸せにする

━ このインタビューで何度も“あるべき姿”という言葉が登場していますが、いつぐらいから、「良いものを長く使う」や「無駄を出さない」という考えを大切にするようになったんですか?

子どもの頃から先代である父にずっと言われ続けたからですかね。ちょっとした洗脳かもしれません(笑)。父は、アンティーク好きでコレクターでもありました。父は、自慢のコレクションを私に見せながら、「良いものは、大事にすれば時代を超えて使うことができる」と何度も言っていました。きっと、それが原体験となって、私の人生観や哲学を形作ったんだと思います。いまは、革職人になったので、当時以上に“長く使うこと”に重きを置くようになりましたが、実際、フランスの二大ブランドのエルメスやヴィトンの革製品は、めちゃくちゃ長く使えるんですね。先代は、日本は、“もったいない”の国なのに、そういうブランドがないことを惜しがっていて、ある時、「ないなら、自分たちがそういう存在になろう」と密かに決意をしたそうです。いまは、私も同じ思いで革と向き合っているので、やはり血は争えないということなんでしょう(笑)。

━ 昨年より、サルベージプロジェクト(アウトレット)をスタートしたのも、“もったいない”に関係ありますか?

あります。私たちは、精魂込めて作ったアイテムだからこそ、最終的に誰かの手に渡す責任があると考えています。皮から革にして、製品化した以上は、使ってもらわないと、和牛的にも天寿をまっとうできず不本意かもしれませんしね。

━ 確かに(笑)。

でも、これまでは、安売りをしたくなかったんです。革は繊細なので、作っている過程でちょっとしたキズがついてしまうことがあります。製品としては問題なくても、新品なのに小さなキズがあるのは職人のプライド的にも許せなかったんですね。だから、見えないところにしまってあったんです。でも、ある日、ふと思ったんです。「ずっとしまってあって世に出ないんじゃ、皮として廃棄処分されたのと変わらないぞ」って。あれだけ、廃棄処分はいけない、エコじゃないって言ってきたのに、自分は何をしていたんだとハッとしました。

━ でも、職人的には世に出したくなかったんですよね?

そうです。なんか悔しいですし(笑)。でも、それじゃいけないと思ったんです。商品にした以上は、商品として成立させる責任があると思いました。それは、「誰かに使ってもらうこと」で成立します。使ってもらってこそ、はじめて、私が大切にしている“循環”も成立します。だから、期間限定のアウトレットをはじめました。ブルックリンを知ってもらうきかっけや、エコやSDGsに興味を持つきっかけになってもらえてるようなので、もっと早くやれば良かったなと思いました(笑)。

━ しっかりと循環させることを優先したんですね。

誰かが、「作って終わりはエコじゃない。作り手のエゴだ」って言ってましたけど、やっぱり、自然なあり方を求めるのなら、ちゃんと循環させないといけないなと思いました。そうやって、形を変えながら社会のどこかと接点を持ち続けるサイクルを作ることが、本当の意味でのエコだと思いますし、そういう社会がサスティナブルな社会なんだと思います。

■革に願いを

━ 様々な想いが込められた「ヤマト」ですが、そういうアイテムを持つと生き方も少し変わりそうですよね。

ありがたいことに、そういうお話もたくさんいただきます。つい先日も、お客様が6年前にうちで買ったヤマトの財布を見せてくださり、「財布と出会って人生が変わった」と感謝を伝えてくださいました。そして、「真剣にものを選んで、大切にすることで人生が豊かになるということを他の人にも知ってほしい」とおっしゃって、使い込まれた財布を経年変化のサンプルとして寄付してくださいました。私は、その方の6年間を詳しくは知りませんが、まるで財布が語りかけてくるようでした。そこまで大切に使っていただくと職人冥利に尽きますよね。涙が出るほど嬉しかったですね。新しい財布をご購入いただいたので、また何年後かに、財布を通して人生を見せていただけるの楽しみにしたいなと思いました。

━ 素敵なお話ですね。

革製品は、その人の一部として使ってもらうことで味が出るのも魅力のひとつです。良いものを出来るだけ長く使っていただきたいので、これからも、様々な人生に寄り添える、上質で丁寧、そしてエレガントなモノを創造していきたいですね。

革の話を一通りしたあと、代表草ヶ谷は次の展望を語りました。

「染め方でもオリジナリティを追求したいんです。いまは、柿渋、藍染がラインナップにありますが、まだまだ日本ならではの染め方はたくさんあるんです。見たことがない色のアイテムを届けたいですね」

そう、笑顔で語る代表草ヶ谷が思い描く未来は、閉塞感漂う現代社会とは正反対の鮮やかな可能性で彩られたワクワクする世界でした。

Edit & Interview:Ryuichi Takao