ブルックリンミュージアムを語るに欠かせない素材「ヤマト」。
2004年に発表し、様々な商品を制作してきました。
“何故、和牛にこだわったのか”
私たちが考える、最上の素材をご紹介します。
さかのぼる事、十数年前。
ヨーロッパ・ミラノで年2回開催される、鞄・革小物の展示会「 MIPEL 」へ出展したことが、我々にとって大きなターニングポイントとなりました。
MIPEL 82回目の開催にして、初めてのジャパンブランド出展。
非常に名誉な事であり、それだけに、重みある招待状でした。
「日本だからこそ出来る、日本ならではの良さを表現する革小物とは何か?」
これまでも「MADE IN JAPAN」を貫いてきた私たちでしたが、「それ以上の何か」が必要になることも感じていました。
そして考え抜いた結果、和牛の存在に辿り着いたのです。
製品を作る「革」へ加工するための「原皮」は、ほとんどを輸入に頼っているのが現状です。
“原皮から、全ての工程をどうにか日本で行えないのだろうか”
そう考える中で、日々様々な場所へ出向き、ブルックリンの求める和牛革を探していきました。
和牛の最大の特徴は何か。
それは、“肌目”にあります。
その肌目を作ることにおいて、カギとなるのは「四季」の存在です。
日本以外にも四季を持つ国はあるものの、これほどはっきりとした気候の変化を感じ取れる国は珍しく、自然が持つ表情も多様な豊かさがあります。
そんな自然の中で育てられた牛の肌目は、春から夏にかけてゆっくり開き、秋から冬にかけてゆっくり閉じていきます。このゆったりとした気候変動を通して、キメが細かく、弾力性に富んだ、非常に綺麗な肌となるのです。
人間の肌も同様に、世界的に日本人の肌がキメ細かく美しいとされる所以です。
そしてもう一点大切なことは、一頭一頭に手間をかける「職人」の存在です。
酪農家の方々は、日々朝から晩まで手をかけ、牛を大切に育てています。
牛の大きな身体を、一頭一頭丁寧にブラッシングするのは骨の折れる作業ですが、汚れや菌が落ちるだけでなく、血流を良くし、体調を整える重要な作業。こういった細やかな牛への配慮がなされているからこそ、牛へのストレスも少なくなり、質の良い革が出来上がるのです。
これだけ手間がかかった原皮を、“より良い革”へ仕上げる技術が必要でした。
『牧場から前鞣(なめ)し、後鞣し、染色、そして仕上げまで、とにかく全工程において日本で行うことにこだわりたい』
そんな我々の要望を叶えてくれたのは、長年ヌメ革ベースのタンニン鞣しを専門としている都内のタンナーさんでした。
何度も打ち合わせを重ねる中で、
「良いモノを作りたいが、実際に市場で求められるのはインポートに似せたモノ。
技術はあるのに活かせないことが一番つらい。」
という言葉がありました。
「だからこそ良いモノを作ろうとしている人と協力していきたい。」
一からモノ作りを行ってきた我々には、これ以上ない言葉でした。
この会話をきっかけに、双方の本音をぶつけ合い、イメージを固めていきました。
一般的にヌメ革というと、分厚くハードなイメージ。
しかし、我々が作りたい革は「エレガント」かつ「ブルックリンらしいカラー展開」ができる革です。
我々が求める肌質を再現するため、工程を何度も確認し、仕上げの温度を少しずつ調整しながら、試行錯誤していきました。
特徴として、染色をする際 『芯通し(しんとおし)』をしています。
これは、「革の内部まで染料を入れて染める」方法で、芯まで染める事により、革にキズが深く入っても、下地が見えない様になります。
そして、芯通しを行うためには、厳選した革を使用しなければなりません。
なぜならば、通常の染色よりもタイコに入れ、まわす時間が長いため、耐久性に優れた革を選定する必要があるからです。
次に重要な工程となるのが、『ツキ』と呼ばれる革の肌目を整える作業です。
ハガネと呼ばれるヘラを使い、手作業で、一枚一枚丁寧に質感を整え、均一にするこの作業。
今ではこの工程を行うタンナーは少なくなりました。
それほど時間と手間がかかり、技術を要する工程です。
あくまでも手作業を貫くからこそ表現できる肌目は、エレガントで美しく、納得のいくモノ作りの根底を支えています。
この下地作りを行った後、仕上げの染色を行います。
これまでの下地作りは「ブルックリンらしい色でありながら、革らしい表情を残して欲しい」という我々の細かな要望を叶えるため、必要不可欠な工程です。
何故なら、この下地作りがしっかり成されていればこそ、絶妙な色出しが可能となるからです。
ブルックリンが扱う革の特徴は、色数の豊かさにも現れています。どのようなシーンをも彩り、周りの人さえ楽しくさせてしまう、そんな色を揃えてきました。
ただし、どのような色でも良いわけではなく、
- ビジネスシーンで使うことで、よりその人の印象を高める色
- 様々な商品を持ったときにも、それぞれが引き立て合う色
これらが揃ってこそ、“ブルックリンの色”として採用されます。
ここで、ヤマトレザーが完成するまでの工程をご紹介します。
1. 「タンニン鞣し」
植物に含まれるタンニンを利用して鞣す方法です。
現在、質の高い和牛原皮を仕入れることが非常に困難となっていますが、独自のルートを確立しているこのタンナーでしか扱うことの出来ないヌメ革を使用しています。
2. 「染色」
クラスト(下鞣し済で染色前の革)をタイコに入れ、染色します。
より繊維の奥まで芯通しする為、通常の染色に比べ、2倍の時間をかけています。ドラムの回転数や水温調整、染料の量などヤマトシリーズの為に研究したオリジナルレシピです。
3. 「脱水」
タイコで後鞣し、染色した革は水分をたっぷり吸って膨らんでいる為、専用脱水機で余分な水分を取り去ります。
機械のハンドルを回し、革の厚みを合わせ、シワを伸ばしていきます。その後、革を乾かします。
4. 「ツキ」
水気を切った後、それぞれの革を見定めながらブラッシングをし、「ハガネ」と呼ばれる専用工具で “一枚一枚” 革の肌目を整えていきます。
現在は、専用のプレス機を使うところが増えましたが、あくまでも職人の手にこだわり丁寧に伸ばしています。
どこまで時間をかけるかによって、製品化した時の表面の美しさが違ってきます。
この後、天日干しで十分に乾かします。
5. 「オイル調整」
乾いた革の染料の入り具合を確認した後、均一な色合いを出す為、専用コンプレッサーを使い、オイルを表裏と丁寧に吹きかけていきます。
吹きかける量によって革の色目が変わる為、最終工程でしっかり色が定着し、要望通りの色へ仕上がる事を想定しながら、オイルを調整していきます。 革の個体差に対する僅かなオイル量の調整も、様々な革と対峙してきた経験値を元に進められます。
6. 「アイロン」
オイルの吹きかけ作業後、乾いた革を、大型のアイロンにかけて完成させていきます。
通常は1回のところ、ブルックリンの革は表面の滑らかさを出すために、2〜3回アイロンをかけていきます。
ブルックリンの考える「良いモノ」。
それは、
“様々な人の「知恵」と「手」、そして「情熱」が入るモノ”
だと、私たちは考えます。