ハマリビト

日常に豊かさをもたらせてくれるコト・モノ。

流行を追うのではなく、「私はコレ」という強い決意にも似た潔い大人に心が惹きつけられるような気がします。

ブルックリンミュージアムが気になるアノ人をフィーチャー。

楽しんだり、もがいたり、それぞれの未来を想い描く方々をご紹介する連載企画です。

ハマリビト
Vol.1


近藤ヒデノリさん
(UoC:University of Creativity フィールドディレクター・クリエイティブプロデューサー)

 

経堂の閑静な住宅地に佇むアート性が高い木造の建築物。ここは都会にいながら持続可能で楽しい暮らし「アーバンパーマカルチャー」を実践する近藤ヒデノリさんのご自宅です。近所とのコミュニティーを大切にした開放的な暮らし。イベントやギャラリー展示なども積極的に行うオープンな家は、現代の一般的な暮らし方とは一線を画します。その想いとは? どんな生活をしているの? 近藤さんの生活に迫ってみます。

━ 朝はどのように過ごしていらっしゃいますか?

近藤さん(以下 近):今年から生活習慣をすこし見直して、朝ご飯を食べるのはやめたんです。朝は豆乳とバナナ、マンゴー、ほうれん草などをミキサーに適当に入れたスムージーを飲むだけにして、ランチも肉など食べないように変えました。主に健康面と環境面が理由です。

そして、スムージーを飲んだ後は縁側でコーヒーを淹れながら瞑想するのがルーティン。今、茶道を習っているんですが、茶道って、華道や書道のルーツでもあるそうで、日本の美意識のベースなんですよね。掛け軸や花、様々な茶道具、お茶、茶菓子も用意して、お客をもてなす凄いキュレーションだと思ってます。10年近く先生を探して、たまたま近所にいい方がいらしたので、去年から通い始めました。

コーヒーを淹れるときも、茶道のイメージで水面に大海を見るようにゆっくりとケトルを回しながら淹れています。庭に育つ草木を眺めていると、アゲハ蝶が飛んできて、小さな庭に生態系がどんどん豊かになってるのを感じて幸せな気分になる(笑)。徐々に感覚が開いてきて、鳥の声や電車の音、近くの小学校で遊ぶ子供の声なども聴こえるようになってくる。そうやって感覚を研ぎ澄ませて、「よし!今日もやるぞ!」と仕事に入る感じです。

近:この庭にある石や椅子なども、ほぼ拾ってきたものです。なるべく新しいものは買わずに、あるものを使うというのを大事にしています。このテーブルも、以前使っていたテーブルの脚に余った木材をつけたもので、家の外壁や床材も、林業に関わる友人の紹介で東京や三重の製材所で余っていた木材を使っています。日本の木材があまり使われずに、森が荒れてしまっているという流れを少しでも変えたいなと。内装も、パテで穴埋めしたり、ヤスリがけ、珪藻土を塗るのも全部、仲間と手作業でやりました。

━ イチから全部自分と仲間で作る。大変な作業ですが、その分思い入れがありそうですね。

近:そうですね、現代では家は「商品」として買うもののように思われてますが、できる部分はなるべくDIYでやれば、自分で直せる。リビングにつくったブランコも、娘が乗って壁を蹴りまくるので足跡で汚れちゃうんですが、毎年末に塗り直して綺麗にしてます。スイッチ周りなどの汚れも自分で塗れば真っ白になりますし。

近:昔は日本家屋の漆喰などの壁も、そうしてたんですよね。江戸時代までは、なんでも自分で直して使うのがあたりまえだった。家だって、村のみんなで協力して作っていたわけで。娘の教育としても、そういうことを大事にしたいなと、ペンキ塗りや棚づくりなど、いろいろ手伝わせています。

━ 気持ち良さそうな椅子ですね。お気に入りですか?

これはBKFチェアというブラジルのデザイナーによる椅子です。家具には基本、お金かけてないんですけど、これだけはずっと前から欲しかったので、一つくらい買うか!と思いきりました。

他は、ソファもおばあちゃんのお古だし、ベンチも余った木材でDIYしたもので、テーブルも外壁のテストで作ったものを、以前使ってたテーブルの上に乗せただけ。ダイニングテーブルも家具屋で買ったら何十万円もすると思うんですけど、材木屋に転がっていた木材を磨いてもらって、鉄脚をつけたもの。自分でやれば、愛着も湧いてきますしね。

書斎に飾られた大きな写真は、以前、喫煙と自由をテーマに行なった個展「Free Camel」で展示作品の一部。

━ 階段を登った離れ的な部屋が書斎なんですね。昔の日本家屋のように風通しをよくしてなるべくクーラーを使わないようにされているんですね。

近:はい、いま気候危機がほんとにヤバイ状況ですから。みんながクーラーを使うと、どんどんヒートアイランドになるので、「エアコンのいらない家」の設備家チームと一緒につくりました。昔の長屋の知恵を取り入れて、暖かい風が上に抜けるようになっています。実際、京町長屋も見学に行ったんですけど、昔の家って、エアコンもない時代にどう風を通すかが凄く計算されていて、そうした知恵を現代の家に取り戻そうと。

ただ、昔の家は夏を過ごしやすくする工夫はされてたけど、冬はめちゃくちゃ寒かったんですよね。そこは断熱材などをしっかり入れて、冬は暖かく、夏は昔ながらの軒や簾で日射を遮って、風はしっかり通るように作りました。

━ なるほど。それにしても書籍がたくさんありますね。家の至るところに置いてあります。

近:ほぼ、息を吸うみたいに読んでいる感じです(笑)。主に仕事に関わるインプットとして、テーマごとに勉強するために読んでますね。最近だと、サーキュラーエコノミーだったり、持続可能な都市やSDGsとか。直近では、UoCのウェブサイトで共同編集長をやることになったので、「暮しの手帖」を読み直したり。本は月に10冊くらい読んでますね。一応、この棚にある本はほぼ読み終えてます(笑)。

━ 屋上に菜園があるんですね。ここで過去にパフォーマンスのイベントを行ったとお聞きしました。

近:そうですね、数年前にアーティストの花代さんとダンサーのマタン・ザミールさんと即興で家と音とダンスを通じて対話するイベントをやりました。菜園は、去年の一回目の緊急事態宣言の頃にDIYでつくったもので、今、「Tokyo Urban Farming」という「Tokyoを、食べられる森にしよう」というプロジェクトをやっているんです。様々な企業やNPOと協働で、山手線の遊休地や屋上などを畑にして、みんなで環境再生型のライフスタイルをつくっていこうと。

さっきの家の話と同じで、食べ物を買うだけじゃなくて、できるだけみんなでつくろうよ、と。消費者から、自分たちも作り手になるみたいな感覚で、その第1歩になるといいかなと思っています。自分で育てる野菜なら農薬を使わないから安心ですし、都会でも自然との関係を取り戻す入口になるといいなと思ってます。

また、今サウナにハマってて、近いうちに屋上にサウナと水風呂をDIYで作りたいと思っています。屋上からの景色がいいので、外気浴にサイコーだなと。

━ 地下はギャラリーになっているのですね。

近:はい。ギャラリーにしたり、卓球したり、味噌作ったり、いろいろ使ってます。コロナ直前には70年代のニューヨークで活動していた土井弘介さんという今年88歳になる写真家の個展をしました。長野県に行って紹介されるまで全然知らなかったのですが、サルヴァドール・ダリとか、ウォーホールやデビュー前のマドンナなど伝説的な有名人をたくさん撮影されていて、撮影時のエピソードもあまりに面白かったので、もっと詳しく聞きたくて。写真評論家で今年89歳の近藤耕人さんと最高齢?トークイベントもやりました。

━ 本業のお仕事が博報堂のUoC(University of Creativity)のディレクターをやっていらっしゃいます。大まかにはどのような内容でしょうか?

近:CMプランナーを経て、クリエイティブディレクターとして様々な業界の企業や自治体、芸術祭などのブランディングに関わってきて、去年から博報堂に設立されたUNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)という創造性の研究機関のディレクターをやっています。

UoCでは「社会彫刻」と言っていて、持続可能な社会に向けて様々な企業や行政、デザイナー、科学者、アーティストなど領域を越えて創造性をかけあわせ、トークセッションやゼミをやったり、様々なプロジェクトを進めています。

━ 仕事内容と今回紹介していただいた生活が一致されていると感じました。

近:そうですね。家では都会の持続可能で豊かな暮らし方を実験している感じです。エアコンをなるべく使わない、なるべく日本の森林を使う、なるべく買わないでDIYでつくることなどを大切にアーティストや環境エンジニア、林業をやっている友達と協力して一緒に作りつつ、家を開いて、同じ意識を持った仲間たちといろいろシェアしていければいいなと思っています。

━ 全部手作り。基本精神として“持続可能性”があるのですね。

近:はい。先ほども言いましたが、いま、僕らの「家」である地球環境が大変なことになってるので、「そのためにぼくにできることは何なのか?」考え続けています。なので、仕事でも同じく「サステナブリティとクリエイティビティ」を軸に、家やご近所でやってきたことを、もっと大きな規模で、企業や行政とも協力して、次の世代のために少しでも住みやすい街や暮らしのあり方をつくっていければと思っています。

━ とても開放的なご自宅、暮らしていて楽しいことは何でしょうか?

近:今はコロナなので、人が集まるイベントはやってないですけど、コロナ前は月に1回くらいのペースでイベントやワークショップなどやっていたので、ご近所や遠くからもいろんな仲間が来てくれて。そこで出会った人と仕事したり、遊びに行ったり、仕事も暮らしも境界なく、楽しんでいます。

たとえば、外で会って名刺交換した時に「お宅行ったことありますよ」と言われることも結構あって、「あ、そうですか!」って(笑)、たくさん来たときは覚えきれない時もあるので。そうやって一度家で会っている人だと気心が分かっていて仕事もやりやすいですし、そういう表面だけでなく、深いところで共振できたり、家でも会いたい方と一緒に仕事が出来るのは楽しいです。

━ 普段、東京で暮らすと住居はプライベートな空間が一般的かと思いますが、開放的にするのは新しいなと思いましたが、いかがでしょう?

近:実は新しくないんですよね。江戸時代の長屋とか、日本の家って元々は開放的だったんですよね。家には他人を入れないとか、プライバシーというのは明治以降に欧米の考え方を間違って解釈して出来ちゃった観念だと思っています。

元々、日本の家には、縁側という家と外の間みたいな曖昧な領域があって、そこに近所の人が来たり出入りするのが普通だったわけで、そういう昔の大らかな街やコミュニティのあり方を、現代に取り戻そうとしているだけなんです。

アメリカもプライバシーを大事にすると言われていますが、一方でホームパーティー文化もあるから日常的に気軽に人を呼んでるわけで。家に他人を入れないとか、お客さんのために綺麗にしなきゃ!というのは昭和以降、プライバシーを間違えて輸入してした結果、ご近所ともギスギスするようになってしまったわけです。近年、日本でもシェアハウスが一気に増えているのも、そうした人とのつながりを取り戻そうとしているのだと思います。

━ この企画が“ハマリビト”で自分らしく生きている方を紹介する企画です。近藤さんはどのような生き方を大切にしていらっしゃいますか?

近:生き方なんて、まだまだ語れる年じゃないですが(笑)、パーマカルチャーにある関係性のデザイン、人と自然、人と人、人と地域のいい関係性、いい循環を大切に生きていきたいですね。自分の仕事だけじゃなくて、暮らしやまわりの地域にもいい循環が生まれて広がって、世の中を少しでもいい方向に変えていけたらと思っています。

━ 最後に、限られた人生の中で日々大切にしていることは何でしょうか?

近:スティーブ・ジョブズが毎日意識していたという「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしたことを本当にやりたいだろうか」 みたいなことは時々意識はしますね。あと、岡本太郎さんの「芸術は爆発だ!」の言葉のように、自分のもっている可能性を燃焼し尽くして死ねたらいいなと思っています。

なので、いつも「自分に出来ることは何なんだろう」とか「自分の可能性を限定せずに、出し尽くして生きたいな」とは思っています。杉本博司さんの「蝋燭の一生」という写真作品があるんですが、自分が1本のロウソクだとしたら、「途中で消えちゃったら勿体ない」と思うんで。それが細く長いのか、太く短いのかはたぶん運が決めると思うんですけど、とにかく自分の可能性を燃焼し尽くして死にたいですね。

その結果、何か残ればいいんでしょうけど。まぁ、そこまでは求めず、少しでも世の中にいい影響を与えることができたらうれしいなと思います。

私の偏愛アイテム Best 3

FAVORITE1
手作りなど温もりがあるコーヒーカップ


近:コーヒーは毎日飲むので、不特定多数に向けて作られた工業製品の冷たさ、味気なさよりも、誰かの手づくりで温かみを感じるものを使いたいと思うし、そういうモノに触れてたいなと思っています。

これらは近所のライフスタイルショップでインド人の職人さんが展覧会をやっていた時に買ったものや、旅行したときにゲストハウスにあった有田焼の作家さんのものだったり、知り合いの工芸家が作ったものなど。手作りのクラフト感があるものが好きです。知人が作ったものだとより愛着が湧くので、そういう手触りや顔が見えるものに囲まれていたい。

FAVORITE2
Taguchiのスピーカー


近:リビングの天井にあるスピーカーは、音楽フェスやアウトドアショップなどをやっているプロデューサーの友人から紹介してもらった「Taguchiスピーカー」。日本で50年ほど独自の技術でスピーカーを開発してる田口さんが作ったものです。

普通のスピーカーは1面だけから音が出るんですけど、これはまったく考え方が違っていて、6面から360°に音が広がるので、空間を音で満たす感じ。しかも、日本の木材を使って丁寧に作っているんですよ。新木場にあるスタジオに伺って田口さんにいろんなスピーカーの音を聴かせてもらって、この家の図面を説明して「この家ならスピーカーを2個つければ十分!」と図面に設置ポイントもマーキングしてもらいました。

FAVORITE3
環境に優しいadidasのスニーカー


近:最近、ちゃんと運動しなくちゃと、週2回くらい走ってるんですけど、10年くらい履いてたシューズがボロボロになったので。たまたま新宿に行った時にadidasショップが目の前にあって。adidasって最近は環境にすごく力を入れていて、海洋プラスチックゴミを回収してシャツを作ったり、このスニーカーも全てリサイクルから作られてると聞いて、即買いしました。

今サーキュラーエコノミーと言われますが、これからは新しい材料を使っていくと地球環境への負担が大きすぎるんですよね。だからリサイクルをしっかりやっているブランドのものを買おうと思っていて、最近はそういう商品しか買ってないですね。服もあまり買わないんですけど、知り合いの直し屋さんにパンツやセーターの破け部分にパッチを貼ってもらったり、気に入った服を直しながら着ています。

愛用するブルックリンミュージアム

近:デザインだけでなく、「良いものを大切に永く使う」という考え方に共感しています。日本の着物文化が繕い直せるのと同じように、この革製品も繕い直せるように作ってあるそうで。オールメイドインジャパン、土に還るレザーで舐めても平気なのもいいし(笑)。SDGs視点もふくめ、しっかりと丁寧につくっているのがいいなと。

それでお店に伺って手帳カバーと財布をオーダーさせていただきました。自分でオーダーするなんて初めてだったし、いいものなので大切に使っています。2年くらい使って、だいぶ馴染んで味が出てきました。先ほどのコーヒーカップもそうですが、ちゃんと作ったものを日々使うのは嬉しいですし、使うたびに愛着が湧いてきます。革製品、テーブル、写真など人の手でちゃんと作られた、心が通ったモノに囲まれているとすごく幸せですね。

手帳カバーの方は、僕はノートをアイデア帳としてすごく使ってて、今使っているノートもMoleskinを経て30冊目くらいで、最近はLIFEのノートに落ち着いたところでなんですが、そのカバーとして持ちやすいですし、中もぐちゃぐちゃにならない。カバーに色々入れられるのも便利です。そういう機能的な部分と、やっぱり見ていて気持ちいいし、持っていて気持ちいい。

人前で出した時なんかも「それいいね」って言ってもらえたりとか。外に出るときはいつも持ち歩いてるし、めちゃくちゃ気に入っています。

Photo:Taku Amano

Edit & Interview:Takafumi Matsushita